滅多に霧の出る土地柄ではない……と思う札幌ですが、ここ二、三日、(主に東区で)毎晩のように霧が出ています。
車の運転にはなかなか注意のいる天候ですが、私は好きです。
晴れの星空や雨の日、雪の日、風の日……そして霧の夜。
雲が低く水蒸気に包まれると、妙に気持ちが落ち着きます。
こう、水分の多い空気は人の気配が近くなるというのでしょうか。ひとつの傘に入って歩いた学校帰りや、肩寄せて寒さを堪えた机の前、暖かな家の中から見上げる曇り空とか。
幸いにして梅雨も無く、雨が降ってもじめっとした気候ではない土地柄もあるのでしょうね。
今夜はいつものラジオを消して帰路につきました。
いつもより静かなエンジン音や規則的なワイパー。水を撥ねるタイヤの音。信号待ちの間、柔らかな霧が車を包んで、そのまま見知らぬ街まで迷い込むような……そんな心躍る気配と音を感じた夜でした。
渡辺淳一著の 「廃鉱にて」 に収録されている一篇。人の妙を思い、伊吹先生のような人が医療を勤めて欲しいと思いながら、これが現実なのだと思うところです。
あらすじは、変形性股関節症のシンポジウム直前のこと。
瀬田と料理屋で飲んでいた期待の医師伊吹が、突然「学会での発表を止めようかと思う」「発表論文の結論が変わった」と言い出すところから話は始まる。
医術の落とし穴を気づかせた伊吹からみたさゆり。
〝まきむら〟のママから見たさゆり。
これからさゆりはどんな生き方をしていくのだろうかと。そして第三者の、読者の視点で人々を見つめる瀬田先生。
それぞれの立場でそれぞれの想いが交差しながら、最後には屈託ない笑顔を見せた。
こういう話を書けるようになりたいと、生意気ながらに思うのでした。
あらすじは、変形性股関節症のシンポジウム直前のこと。
瀬田と料理屋で飲んでいた期待の医師伊吹が、突然「学会での発表を止めようかと思う」「発表論文の結論が変わった」と言い出すところから話は始まる。
医術の落とし穴を気づかせた伊吹からみたさゆり。
〝まきむら〟のママから見たさゆり。
これからさゆりはどんな生き方をしていくのだろうかと。そして第三者の、読者の視点で人々を見つめる瀬田先生。
それぞれの立場でそれぞれの想いが交差しながら、最後には屈託ない笑顔を見せた。
こういう話を書けるようになりたいと、生意気ながらに思うのでした。
午後から友人と、学生時代の先輩の個展を観に行ってきました。久々の油絵の具の匂い。
こう、柔らかな線を浮かび上がらせる白、青、淡い黄や萌える薄緑。流れる氷であったり、日の位置が変わる。果てしない地平線をイメージさせる、幾筋の線の抽象画。学生時代から変わらない優しいタッチで、丁寧に丁寧に描かれているのをみると、ふっ……と息が零れる感じでした。
それでも鑑賞に来てくださった先生のアドバイスをさり気なく横で聞いていると、淡雪のような白の使いが粉っぽい画があると指摘してくださっていたり、また逆にしっとりとなじんでいると教えてくださったり。先輩も、悩み迷いながら描いた時の画は、色が濁っていると言っていた。深みがあると感じていた、なるほど、創るものは気持ちを映すものだと。
偶然にも一年半あまりかけて書いた連載が完成して、改めて読み直した今朝、自分の文も同じように感じました。
悩み迷う時もあるだろうけれど、それを自覚して書くか書かないか。丁寧に向き合ったなら、それはそれでまたひとつのかたちになるのだと思うのでした。
こう、柔らかな線を浮かび上がらせる白、青、淡い黄や萌える薄緑。流れる氷であったり、日の位置が変わる。果てしない地平線をイメージさせる、幾筋の線の抽象画。学生時代から変わらない優しいタッチで、丁寧に丁寧に描かれているのをみると、ふっ……と息が零れる感じでした。
それでも鑑賞に来てくださった先生のアドバイスをさり気なく横で聞いていると、淡雪のような白の使いが粉っぽい画があると指摘してくださっていたり、また逆にしっとりとなじんでいると教えてくださったり。先輩も、悩み迷いながら描いた時の画は、色が濁っていると言っていた。深みがあると感じていた、なるほど、創るものは気持ちを映すものだと。
偶然にも一年半あまりかけて書いた連載が完成して、改めて読み直した今朝、自分の文も同じように感じました。
悩み迷う時もあるだろうけれど、それを自覚して書くか書かないか。丁寧に向き合ったなら、それはそれでまたひとつのかたちになるのだと思うのでした。
渡辺淳一著の 「廃鉱にて」 に収録されているタイトル作品。
北海道のとある炭鉱にて、ある一人の妊婦さんのお話です。
女の人の生命力はすごい、という、渡辺氏の力説が溢れていて、自分が読んでも、あぁ……だめ、イタイ、イタイ、と言ってしまいそうな姿を (主人公の女性に対する畏怖と不気味さを併せ持ちながら) 最後に残るのは母となった千代の明るい笑顔ばかりが印象に残りました。
女性だから逞しいのではなく、千代だから逞しいのですよ、きっと、と心の隅で思いながら。
廃屋となった炭鉱長屋。かつて千代が瀕死で眠っていた部屋の跡からすくっと伸びたぺんぺん草。
北の涼しげな風に吹かれる夕暮れ時の空が、鮮やかに思い浮かんだのでした。
北海道のとある炭鉱にて、ある一人の妊婦さんのお話です。
女の人の生命力はすごい、という、渡辺氏の力説が溢れていて、自分が読んでも、あぁ……だめ、イタイ、イタイ、と言ってしまいそうな姿を (主人公の女性に対する畏怖と不気味さを併せ持ちながら) 最後に残るのは母となった千代の明るい笑顔ばかりが印象に残りました。
女性だから逞しいのではなく、千代だから逞しいのですよ、きっと、と心の隅で思いながら。
廃屋となった炭鉱長屋。かつて千代が瀕死で眠っていた部屋の跡からすくっと伸びたぺんぺん草。
北の涼しげな風に吹かれる夕暮れ時の空が、鮮やかに思い浮かんだのでした。
群来と書いて 「くき」 と読みます。
日本海に押し寄せるニシンの大群が産卵して、海が白くなることを呼ぶそうです。
病院の本棚に見つけた なかにし礼著 の 「兄弟」 の中に、増毛 (ましけ) に押し寄せた群来のくだりがあり、ふとこれはファンタジーだと感じました。
冬の北海道。海の潮風と生臭い魚の匂い。
網にニシンが入ったなら一日で100万の稼ぎになる、と言って三日間の網代(かかった魚の権利)を買った主人公の兄は、勝手に祖母の家を担保にして30万のお金を借りる。終戦直後、1945年(昭和20年)頃、米10kg 6~150円 という時代で100万の価値は想像できないのだけれど。群来を描写した60年前のリアルは今の空想世界だと感じるのです。
小樽のニシン御殿を見に行ったこともあるし、番屋を見学したこともある。けれどそれはあくまで博物館としてで、漁師が寝泊りして山のような魚に溢れた世界じゃない。
乱獲か環境の変化か近年ではほとんど魚が取れなくなり、私が知るニシンといえばビニールパックに入った切り身程度です。この物語の世界はこの地に存在してないのだと……。
今朝の新聞に、ここ数年、ニシンが獲れ始めていると載っていました。
三年前には50年前の群来を思い出させるような豊漁で、その当時の稚魚が確実に帰ってきているらしく、来年以降では再び群来が見られるかもしれないとの事です。
網目を大きくして若い魚を逃がす、サケのように稚魚を放流する。昭和20年代のような泥の匂いはないかも知れないけれど、四月になる前に一度、北の海を見に行くのもいいかもしれないと、病院の窓際で思いました。
日本海に押し寄せるニシンの大群が産卵して、海が白くなることを呼ぶそうです。
病院の本棚に見つけた なかにし礼著 の 「兄弟」 の中に、増毛 (ましけ) に押し寄せた群来のくだりがあり、ふとこれはファンタジーだと感じました。
冬の北海道。海の潮風と生臭い魚の匂い。
網にニシンが入ったなら一日で100万の稼ぎになる、と言って三日間の網代(かかった魚の権利)を買った主人公の兄は、勝手に祖母の家を担保にして30万のお金を借りる。終戦直後、1945年(昭和20年)頃、米10kg 6~150円 という時代で100万の価値は想像できないのだけれど。群来を描写した60年前のリアルは今の空想世界だと感じるのです。
小樽のニシン御殿を見に行ったこともあるし、番屋を見学したこともある。けれどそれはあくまで博物館としてで、漁師が寝泊りして山のような魚に溢れた世界じゃない。
乱獲か環境の変化か近年ではほとんど魚が取れなくなり、私が知るニシンといえばビニールパックに入った切り身程度です。この物語の世界はこの地に存在してないのだと……。
今朝の新聞に、ここ数年、ニシンが獲れ始めていると載っていました。
三年前には50年前の群来を思い出させるような豊漁で、その当時の稚魚が確実に帰ってきているらしく、来年以降では再び群来が見られるかもしれないとの事です。
網目を大きくして若い魚を逃がす、サケのように稚魚を放流する。昭和20年代のような泥の匂いはないかも知れないけれど、四月になる前に一度、北の海を見に行くのもいいかもしれないと、病院の窓際で思いました。
時々、夢に見た景色を小説のネタにすることがあります。
ちょうど一ヶ月前に見たのもそう、この世界観は物語になりそうと、思うのを見ました。
複雑な迷路のようになった建物内部、巨大マンションの一室に住まう私。廊下は狭く入り組んでいて、迷宮のようになっている。下手に入り込むと帰ってこれなくなるぐらいに……。
そんな建物の私の部屋は明るくて、白い壁に日当たりのいい眺め。そして気がつけば見知らぬ部屋があった。
ここに引っ越して来て数ヶ月が経つけど、他にも部屋があったなんて気づかなかった。そう思いつつ、ほんの少しの冒険心を出して部屋を覗く。どうやら、そこは育児室になっていて、いくつかのベビーベッドが置いてあった。
更にその向こうには白くて清潔な……近代的な廊下が続く。私は途中まで忍び込むけれど、関係者以外立ち入り禁止の場所だからと自分の部屋に戻ってきました。改めて、窓の外を見ると地上は遥か下。
建物は数百、数千の階層に積み重なれ、遺跡の上に新たな街が造られているのです。隣の棟には空中庭園が広がり、人々は穏やかに午後のひと時を過ごしている ――― 目が覚めて思ったのは仙人郷未来バージョン。そんなとこ。
ちょうど一ヶ月前に見たのもそう、この世界観は物語になりそうと、思うのを見ました。
複雑な迷路のようになった建物内部、巨大マンションの一室に住まう私。廊下は狭く入り組んでいて、迷宮のようになっている。下手に入り込むと帰ってこれなくなるぐらいに……。
そんな建物の私の部屋は明るくて、白い壁に日当たりのいい眺め。そして気がつけば見知らぬ部屋があった。
ここに引っ越して来て数ヶ月が経つけど、他にも部屋があったなんて気づかなかった。そう思いつつ、ほんの少しの冒険心を出して部屋を覗く。どうやら、そこは育児室になっていて、いくつかのベビーベッドが置いてあった。
更にその向こうには白くて清潔な……近代的な廊下が続く。私は途中まで忍び込むけれど、関係者以外立ち入り禁止の場所だからと自分の部屋に戻ってきました。改めて、窓の外を見ると地上は遥か下。
建物は数百、数千の階層に積み重なれ、遺跡の上に新たな街が造られているのです。隣の棟には空中庭園が広がり、人々は穏やかに午後のひと時を過ごしている ――― 目が覚めて思ったのは仙人郷未来バージョン。そんなとこ。